親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
 何でもないような声で、先生は私の名前を呼びます。
 それがとても瑞々しく私の心に染み渡りました。私のワガママはワガママとすら言えないと肯定してもらえているような感覚は、私の呼吸を落ち着けてくれました。
 ふう、と少しだけ息を吐く代わりにウェイトレスの方が持ってきてくれた珈琲を飲みます。苦い。けれどこれが今は冷静さを呼び戻しました。
 店長は変な人みたいな言い方をしてたけど……ホントに、そうなのかな。

「ふん、名前なんてただの識別する手段に過ぎないから何でも良いが……それより胡桃くん、オムライスは作れるかい?」
「え? ……オムライス?」
「ああ、オムライス。言っておくが昨今流行りの軟弱なオムライスではないぞ」
「軟弱なオムライス」

 夢望先生の口から出る言葉が聞き慣れないものばかりで、私は繰り返す事しか出来ませんでした。どんなに馬鹿といえど、トロトロオムライスは分かります。けれどそれを軟弱と例えるのは分かりません。軟弱なんでしょうか?
 どこからそんな語彙が出てくるんでしょう。頭?

「しっかり焼かれた、昔ながらのやつだ。出来るか」

 頬杖をつきながら、夢望先生はこちらを見つめます。その瞳は真っ直ぐした嘘のないもので、私はコップの持ち手を指で弄りながらも、真っ直ぐと見つめ返しました。

「甘いケチャップライスも作れます」
「……砂糖を入れたかのような甘いケチャップライス?」
「はい」
「掃除は」
「家事は一通り出来ます」
「俺の下僕になれるか」
「一生懸命働きます」
「本音は? 今何を考えている?」
「本音……?」

 困りました。別に嘘は着いていません。
 けれど、多分ここは何でも良いから言うべきなのでしょう。頭を傾げて、今何をしたいか考える事にしました。
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