親に搾取されてきたJKが、偏屈先生と出会って溺愛されるまで
「あ、珈琲に砂糖を入れたいです」

 そういえば、入れるの忘れてたんでした。思い当たってすっきりしたのでそのまま言うと、夢望先生は目を丸くして驚いていました。
 しまった、失言だったかな?
 そう思って眉を下げると、先生は張り詰めた風船から空気が零れるような音で「ふはっ」と音を鳴らし、くつくつと笑い始めました。

「好きに入れたまえよ、砂糖ぐらい!」

 男性らしい長い指が砂糖壺に伸び、指先で小さな突起を摘んで蓋を開けます。そのまま蓋を横に置いて角砂糖を取り出すと、私の珈琲にぽちゃぽちゃと二つ落としました。
 溶け出した砂糖は珈琲の中に甘いもやを作りながらも形を保っているのが辛うじて見えます。

「一つで大丈夫です」
「口答えする気かね? さっき一生懸命働きますと言っただろう」
「何の関係があるんですか」
「力をつけたまえ」

 夢望先生は指に砂糖をつけたまま、私のおでこに指を近付けて、

「いだっ」

 デコピンをされました。

「君は今日から俺の下僕なんだから! スタミナをつけたまえよ、あははっ!」

 心底楽しそうに笑う夢望先生は、お名前通り夢みたいだったので。
 まあ、下僕でも良いかなぁと私も笑みを零しました。
 ……笑ったのなんて、いつぶりでしょう。
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