エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
理想が高いのか、すでに心に決めた人がいるのか。
久住部長のお眼鏡にかなう人は一体誰なんだろうと、社員の中で話題になることもしばしば。

そもそも、久住部長のプライベートは謎だ。
自分から余計なことを話しているのを聞いたことがない。
たまに久住部長の同期で海外事業部の穂積さんと一緒にいるところを見かけることがある。
さすがに同期の人とはプライベートな話はしているんじゃないかなと勝手に思っている。

久住部長と仕事以外で話したことが一切ない私はどうしたらいいんだろう。
上司に提供できるような話は何もない。
いや、無理に話題を見つけて話しかけることをしなくてもいいのでは?
部下と世間話なんてしたくはないだろうし、と脳内でアレコレ考える。

「大丈夫か?」

突然そんなことを言われ、戸惑いながら彼を見た。

「えっと、何がでしょうか?」
「失恋したと聞いている」
「あ……」
 
久住部長からその話が出てくるとは思わなかった。
営業部の人たちは、部長含めみんなここに来ている時点で私が彼氏と別れた失恋女として認識されているはずだ。
当然、人の恋愛話は気になるものだ。
だけど、久住部長の表情から興味本位で聞いているというより私のことを心配しているように見えた。
わざわざ部長にまで励ます会に来てもらい、さっきからずっと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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