エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
自分では目も開いているし普通に歩けてると思っているけど、望にはそう見えないみたいだ。
居酒屋を出ると、生ぬるい夜風が火照った頬に当たる。
  
「ちょっと、寄りかかってこないで真っ直ぐ歩いてよ。重たいでしょ」

望はバシッと私の腕を叩きながらも身体を支えてくれる。
そして「二次会に行きたかったのに」とぼやく。
 
「ん~?わたし一人で帰れるよ?」
「このバカ!絶対に無理でしょ。ちゃんと私が家まで送ってあげるから」

そういえば、望は二次会に行きたいと言っていた。
多分、灰原君のフォローのためだろう。
調子に乗って飲みすぎなければよかったな、と今更ながら後悔する。

望に支えられ、ふわふわした足取りで歩く。
眠いけど、タクシーに乗ったらどうにか一人でも帰れるはずだ。
口を開こうとした瞬間、久住部長がそばにやってきた。

「吉瀬さん、代わるよ」
「えっ?」
「さっきから見てるが、なかなか手強そうだな」
「そうなんです。この子、調子に乗って結構お酒を飲んだみたいで寝落ち寸前です」
「だろうな。こんな羽山さんは初めて見たよ」

久住部長は苦笑いしている。

「私たちの前では大丈夫だとか言いながら、本当は失恋のダメージが大きかったのかもしれません」
「そうか……」

失恋のダメージなんて全くないよ、と訂正したかったけど睡魔がそれを阻止してくる。

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