エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

完全にやらかした。
どんな顔をして久住部長に向き合えばいいのか分からないから、起きる前に帰りたかったんだけど……。

多分、この状況は久住部長にとって不本意なはずだ。
お互いにお酒に酔って一夜の過ちを犯してしまっただけ。
身の程はわきまえているし勘違いはしない。
私はギュッと拳を握った。
 
「あの、大丈夫です」
「え、何が?」
「これはよくある酔った勢いでの過ちだから……なかったことにしてください」
「は?」

身体を起こした部長は、前髪をかきあげながら意味が分からないといった表情で私を見る。

「酔った勢いでの過ち?何を言っているんだ?昨日のこと、覚えていないのか?」
「すみません、ハッキリとは思い出せてなくて……。でも、久住部長にご迷惑をかけたことだけは分かります」
「別に俺は迷惑をかけられたとは思っていない」

久住部長はキッパリと言い放つけど、きっと優しさからそう言ってくれているんだろう。
それより今の私にとって上半身裸の久住部長の姿は目の毒だ。
これ以上、この場に留まるのは私の精神衛生上よくないので今日のところは帰らせてもらおう。

「本当にすみませんでした。私も忘れるので久住部長も忘れてください。それでは失礼します」
「あっ、ちょっ、待て……」

呼び止められたけど、冷静に判断が出来なかった私は急いで寝室を出た。
そして、リビングに置いていたバッグを掴んで玄関の扉を開けて家路についた。
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