エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい


久住部長の前で泣くわけにはいかなくて、涙をこぼさないよう必死に堪える。
仕事中の部長は滅多に表情を崩すことがない。
それなのに、今日は柔らかく笑う顔や心配そうに私を見つめる瞳、様々に変化する部長を目の当たりにして、心がざわざわする。
 
『どうした、気分でも悪いのか?』

何も喋らなかった私を気にしてなのか、久住部長はベッドの縁に座って私の顔を覗き込んだ。
今、顔を見るのはやめてほしい。

『い、いえ。気分は悪くないです。ただ、久住部長が私のことをそんな風に評価してくれてるとは思わなくて……。すごく嬉しいです』

へへ、と泣き笑いという微妙な表情を浮かべると、久住部長は私の頭をクシャリと撫でた。

『本当のことを言っただけだ。元カレは羽山さんの良さに気が付かない間抜けだったんだ。俺だったら、君を放置するなんて絶対にしないのに』
『えっ』
『君には悪いが、別れてくれてよかったと思っている』
 
真顔でそんなことを言われ、意味が分からず戸惑ってしまう。
別れてくれてよかった?
どうして久住部長がそんな風に思うんだろう。
しかも、熱のこもった強い眼差しを向けられて逸らすことが出来ない。
普段とは違う色っぽい瞳で見つめられ、心臓の鼓動が激しくなっていく。
 
『あの』
『嫌だったら避けてくれ』

久住部長の顔がゆっくりと近づいてきて唇が重なった。
私、今キスしてる?

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