エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

元カレとしたときには痛みしか感じなかったのに、今まで経験したことのない快感の波が押し寄せる。
何度も絶頂に達して訳が分からなくなり、自分でも驚くぐらい乱れていた。

『琴葉』と私の名を呼ぶ久住部長の声が、恋人だと勘違いしそうになるぐらい甘かった。
しかも、久住部長が私のことを『好きだ』と言った気がして、どこまでも都合のいいことしか起こらなくて目覚めるのがもったいないぐらい幸せな時間だった。

それが、朝起きてあれが現実だったと気づいた時の絶望感といったら言葉には出来なかった。
夢だと思っていたから大胆にもなれたのに……。

久住部長に一夜の過ちだと言って逃げ帰ってきたことが正解だとは思わない。
だけど、あのまま居座ることは私には出来なかった。

そんなことを考えているうちに、会社の最寄り駅に着く。
重たい足取りで会社に向かい、営業フロアの前で立ち止まった。
あと一歩が出ないけど、このまま突っ立っていても仕方ない。
「よし」と心の中で気合を入れて足を踏み出した。

「おはようございます」

挨拶しながらぐるりとフロアを見回し、ある一点で視線を止めた。
この状況で私が気になるのは久住部長の席だ。

でも、そこは空席だった。
ホワイトボートを見て小さく息を吐いて自分の席に向かった。

「おはよ、琴葉」

私の隣の席の望があくび交じりに挨拶してくる。

「おはよ」
「ねぇ、金曜日はちゃんと帰れたの?」
「き、金曜……」

望に言われ、私はあれこれ思い出して赤面した。
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