エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
ちゃんと帰れたもなにも、金曜は自分の家には帰っていない。
実際に帰ったのは次の日の土曜日だ。
あの時のことを思い出すだけで顔が羞恥に染まる。

「ねえ、なんで顔を真っ赤にしてんの?まさか、部長に迷惑をかけたんじゃないでしょうね」
 
望が怪訝な表情で私を見る。
彼女は面倒見がよく、いつも助けられていたから、私が酔っていたので気になったんだろう。

「め、迷惑なんてかけるわけないでしょ。ちゃんと帰ったし」

そう答えるだけで精いっぱいだった。
酔って迷惑をかけた挙げ句、久住部長とエッチしちゃいました、なんて本当のことを言えるわけがない。

「ならいいけど。琴葉、結構飲んでたみたいだし、部長に全て任せてしまったことが気になっていたのよ。タクシーの中で寝ちゃったんじゃないかとかあれこれ心配してたけど無事に帰れたんならいいわ」

その言葉を聞いて胸が痛くなる。
久住部長には迷惑をかけっぱなしだし、取り返しのつかないことをしでかしてしまった。
時が戻せるなら戻して欲しい。

その久住部長は今日は出張に行っている。
さっき、ホワイトボードを見たけど今日は終日出張になっているのを確認済みだ。
NR(ノー・リターン)と書かれていて、久住部長は会社には帰ってこない。

どんな顔をして会えばよかったのか分からなかったので、安堵している私がいた。
まぁ、猶予が一日延びただけだけど。
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