エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
 
「いえ、とんでもないです。全然大丈夫なので気にしないでください」
「無理してない?」
「してませんよ」

笑いながら答えると、伊藤さんにメールを送信した。
本当に営業部の人たちはいい人ばかりで、職場に恵まれてるなと改めて思う。
 
「今、送ったので確認してください」
「サンキュー、助かった」

そう言って、伊藤さんは自分の席に戻っていった。



次の日、いつものように出社したら久住部長はすでに席に座っていて、そばには緊張した面持ちの灰原くんがいた。
久住部長は書類に目を通していて、何か二人で話していた。

私は自分の席に向かい、椅子を引いて座ろうとした時、一瞬、こちらに視線を向けた久住部長と目が合った。
突然のことにドキッと大きく心臓が跳ねる。
でも、彼はスッと視線を逸らして再び灰原くんに話しかけていた。

こんなに動揺しているのは私だけで、久住部長は普段通りに見えた。
よく考えたら久住部長は仕事にプライベートを持ち込まない人だ。

きっと、一夜の過ちでなかったことにしたいと言った私の言葉を受け入れてくれたんだろう。
大人として正解な対応をしてくれたんだ。

私も気持ちを切り替え、今日の業務の確認をするためにパソコンを立ち上げた。

次の日以降も、久住部長と私は以前と変わらず口にする内容は仕事の話のみ。
このまま、あの夜の出来事は本当になかったことに出来ると思っていた。
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