エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

社長の父親の挨拶が終わると、写真撮影が行われた。
会長の祖父、社長の父親、長男の芹くんの三人が並んでいる。

代々『HYM商事』の方針で、会社に携わっていない家族の顔は公表せず、写真は一切撮らせない。 
私たちのプライバシーを守るため、そこは徹底している。
だから、私と母親も離れた場所で父親たちを見つめていた。

芹くんも期待の後継者として、最初に壇上に立ち挨拶をしていた。
先日、ビジネス雑誌の特集で芹くんの記事が掲載されていたこともあり、特に注目が集まった。

写真撮影が終わり、マスコミ関係者がパーティー会場から出て行った瞬間、私はひとり立食パーティだとばかりに、お皿に料理を取って食べ始めた。
お腹が一杯になったころ、母親が声をかけてきた。

「琴葉、ちょっと席を外すわね」
「どうしたの?」
「マスコミの人たちも帰って落ち着いた頃だから葵のところに行ってくるわ」
「分かった。あ、お母さん!私、そろそろ帰ってもいいかな」
「そうね。最初に少し挨拶したからもういいかもね。でも、帰る前に葵に声をかけてね。黙って帰ると拗ねるし、バタバタしていて琴葉のドレス姿をちゃんと見ていないと思うから」
「うん、分かった」

着物姿の母親は客人と談笑している父親のところに向かった。
私の両親は、今でも名前で呼び合っている。
もう少しで六十歳になる両親だけど、二人とも見た目が若くて綺麗な年の重ね方をしている。
そんな二人の関係に憧れる。
< 32 / 38 >

この作品をシェア

pagetop