エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

「芹くん、私一人で帰れるよ。行きと同じでタクシー使うし」
「それでも心配だ」

久々に会っても芹くんの過保護は健在だ。
でも、ここは断固として拒否させてもらう。

「あのさ、前にも言ったと思うけど、もう社会人なんだからそこまで心配してもらわなくてもいいよ。それに久住部長にも迷惑をかけたくないし」
 
チラリと芹くんの隣に視線を向ければ、ネイビーのフォーマルスーツにシルバーのストライプのネクタイ姿の久住部長がいる。
長身でスタイルがよく、何を着ても様になる人だ。

実を言うと、久住部長のことは以前から知っていた。
私が小学低学年の頃、父親の仕事関係のパーティーに家族で出席したことがある。
確か、そのパーティーは父親の友人や繋がりのある会社の社長の家族の集まりで、ホームパーティーの豪華版だったと記憶している。
そこで初めて久住部長に会ったんだ。

そんな久住部長がここにいる理由……。
芹くんと久住部長は同い年で仲がいい。
親同士も付き合いがあるので、創立記念パーティーに参加していても不思議ではない。
だからといって、こんな場所で会うなんて想像すらしていなかった。
心の準備が全く出来ていないのに不意打ち過ぎる。

この場をどうやって乗りきろうか考えていたら久住部長が口を開いた。

「俺は別に構わないけど」
「えっ」

予想外の言葉に驚いて久住部長を見ると、口元に笑みを浮かべていた。
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