エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

あの夜からしばらく経ったけど、久住部長とは事務的な会話しかしていない。
それは当然だろう。
仕事中の彼は余計なことを話すような人ではないからだ。

「サンキュー、恭二。助かるわ。琴葉を頼むよ。じゃあ、琴葉も気を付けて帰れよ」

芹くんは久住部長の肩をポンと叩き、その場を離れた。

「俺もそろそろ帰るよ。琴葉、またな」
「あ、うん。仕事、頑張ってね」
「ああ。恭二くん、琴葉のこと頼みます」

芹くんに続き柊くんも私のことをしっかり久住部長に託してパーティー会場を後にした。
そして、久住部長と二人残されてしまった。

私が口を挟む間もなく、芹くんと柊くんは言いたいことだけ言ってこの場を離れた。
シスコン二人が男の人と私を二人きりにした上、送迎を頼むということは、よほど久住部長に信頼があるのだろう。

この状態で二人きりにされるのは私的には非常に困るんだけど。
こっそり久住部長を見ようとしたら、私を見つめる視線とぶつかった。

「じゃあ、行くか」

身構える間もなく、普段通りの声色で話しかけてきた。

「あの、帰る前に父親に挨拶してくるので久住部長は先に、」
「分かった。ここで待っている」

帰ってくださいという言葉を遮られた。

「芹たちからも送るように頼まれたから、先に帰るようなことはしない」

キッパリと告げられ、逃げることは出来なくなった。

「ちょっと行ってきます」

一人で帰るのを諦めた私は父親のいる場所に向かった。
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