エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
「恋人ならいる」

そう言って私のそばに来て肩を抱き寄せた。

「羽山琴葉……？」

名乗っていないのに私の名前を口にした三条さんはジロリと睨み付けてきた。

ドキドキしながら久住部長を見上げると、耳元で「ごめん、話を合わせてもらえると助かる」と囁き、私のこめかみにキスを落とした。

っ！

「そう、琴葉が俺の恋人。だから三条さんの気持ちには応えられない」

彼の言葉を聞き、これは演技なのかと理解した。

「そんな……。いつから二人は付き合っているんですか？」
「三条さんに言う必要はない。あと、いつも君がしているように親に泣きついても無駄だよ。うちも琴葉の家も三条家の圧力に屈するようなことは絶対にないから」

親のことを言われた三条さんは悔しそうに唇を噛む。
そして、なぜか私を鬼の形相で睨んで「後悔したって知らないんだからっ！」と叫んでその場を後にした。
え、私？

何を後悔するのか恐ろしいものがあるけど、とりあえずは一段落といったところだろう。

嵐が去り、久住部長は「さっきはごめん」と謝罪して私から少し距離を取った。

「いえ。あの、大丈夫ですか？」
「ああ。三条の娘には本当に参るよ。彼女は御曹司を見かけたら手当たり次第に声をかけていたんだ。相手が渋ると三条の父親が出てきてうちの娘と付き合わないかと持ち掛けてくるんだ。この前、芹も娘から交際を申し込まれたらしいけど、速攻で断ったと言っていた」
「そうだったんですね。芹くんも……」

相変わらずなんでも自分の物にしたいというのは幼い頃から変わっていないのか。
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