エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
山田さんというのは、営業部の先輩で望がアシスタントをしている人。
ムードメーカーで人情に厚い人で有名だ。
山田さんの耳に入ったら、それは営業部全体に知れ渡る。
望もスピーカーだけど、山田さんはその比にもならない。
彼氏と別れたのは本当のことだし、隠すこともないので知られるのは構わない。
だからって上司までこの飲み会に参加するなんて想像すらしていなかった。
優しい上司は『今日は奢るから羽山さんはしっかり飲んで。部長がスポンサーだから遠慮しないでね』と言われた。
望が山田さんにどんな流れで私の話をしたのか分からないけど、こうして私のために飲み会を開いてくれる気持ちは嬉しかった。
だけど、私はこれっぽっちも落ち込んでいないとは口に出せないでいた。
「こんなことを言ったらセクハラとかになるかもしれないけど、羽山さんは可愛いし仕事も丁寧だしすぐにいい人が現れるよ」
「その通り。浮気男には天罰あるのみ」
「琴葉ちゃん、これ飲んで元気出して」
みんな口々に励ましてくれ、山田さんと同期の森田玲子さんがビールのジョッキを差し出してきた。
森田さんは私と望が営業部配属になったときにお世話になった女性の先輩。
優しくも厳しく指導してくれたおかげで今がある。
仕事の時は緊張感があるけど、営業部のメンバーはみんないい人たちで和気あいあいとした雰囲気だ。
私はそんな人たちに失恋した可哀想な女だと思われているんだろう。
苦笑いしながら森田さんからジョッキを受け取った。