エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
 
「付き合うわけないだろ。冗談でもそんなことを言わないでくれ。琴葉が誤解するだろ」

久住部長は呆れたように言ったあと、私の肩をそっと抱き寄せた。

「珍しいわね、恭二が自分からそんなことするなんて。琴葉ちゃんか……大事にしているのね。可愛くて純粋そうだから恭二にはもったいないんじゃない?」
「それこそ大きなお世話だよ。これから飯を食いに行くんだから邪魔するな」
「はいはい、分かったわよ。ねぇ、その子は恭二が本気で好きになった相手なの?」
「そうだよ」
「そっか。あの時は自分勝手に恭二を振り回してごめんね」

目の前の女性は謝罪の言葉を口にした。

「昔のことだし気にするな。じゃあ、俺らは行くよ」
「ええ。琴葉ちゃん、恭二は真面目ないい男よ。って私が言わなくても知ってるか……。機会があったら一緒に飲みましょ、恭二抜きで。じゃあね」

女性は笑顔で手を振り、去って行った。
いい人……だったんだろうか?
我が道を行くタイプの人っぽかったけど。
チラリと久住部長の顔を見ると、申し訳なさそうな顔で口を開いた。

「ごめん、ビックリしただろ」
「……っ、いえ……」
「彼女は麻生莉子。前に話したと思うけど、幼なじみで付き合っているふりをした相手だよ。何年も前に結婚してアメリカに行ったと聞いていた。まさか離婚して帰国しているとは思わなかったけど」

ただの元カノではなく、私が芹くんの話を真に受けて久住部長を諦める原因になった人だったんだ。
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