エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
会計は私が気付かないうちに久住部長が済ませてくれていた。
そのスマートさに驚くばかりだ。
幹也とは割り勘だったのでいいのかな?と思ったけど素直に甘えることにした。
「この後は帰る?それともうちに来る?」
食事も終わり、駐車場に向かっている途中で聞かれた。
真剣な目で見つめられて鼓動が跳ねる。
久住部長は車を運転するのでお酒は飲まなかった。
私もあの失態の夜のことがあり、今日はウーロン茶を飲んだ。
そんなことより、久住部長からのお誘いだ。
今日は金曜日で明日は休み。
迫られた選択肢は二択、行くか、帰るか。
このまま帰るのは名残惜しい。
かといって、久住部長の家に行くということはもしかして……という不埒な考えが頭に浮かぶ。
「俺としては琴葉に来てほしいけど」
そんな言い方はズルいと思う。
変に意識してドキドキしていると、久住部長が私の耳元で囁いた。
「来る?」
甘い声が鼓膜を揺らし、"イエス"以外の言葉を告げることが出来ない。
私はコクリと頷くと、久住部長は「じゃあ、行こうか」と言って車に乗るように促した。
マンションの駐車場に着くと車を止め、大理石が敷き詰められているエントランスに足を踏み入れる。
フロントカウンターにいたコンシェルジュから『おかえりなさいませ』と挨拶されて軽く頭を下げた。
乗り込んだエレベーターが最上階に着く。
部屋に入るとリビングに通され、緊張した面持ちでソファに座った。