エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

「ちょっと灰原くんのところに行ってくるわ」
「急にどうしたの?」

ビールを飲んでいたら望が腰を浮かせた。

「彼の隣、美鈴さんでしょ?あの人、ザルだから一緒に飲んでたら潰される」

望の視線は隣のテーブルに向いていて、私もそれに倣う。
森沢美鈴さん、彼女は営業部で一位二位を争うぐらいの酒豪の先輩だ。
彼女と一緒のペースで飲むと必ず潰される。

灰原くんは私たちの一年後輩の男性で、望が担当している営業マン。
クリクリした大きな瞳に笑うとえくぼが出来き、年上女性が母性本能を擽られる容姿をしている。
名前が灰原亜蓮(はいばらあれん)といい、アイドルにいてもおかしくない可愛い系のイケメンで望が一番推している人だ。

元々、望はアイドルの推し活をしていた。
リア恋とまではいかないけど、そのアイドル一色の生活だった。
だけど、そのアイドルが結婚したという報道を見て目に見えるぐらい落ち込んでいた。
生き甲斐をなくしたと嘆いていた時期に灰原くんが営業部に配属された。
彼は望の好みの容姿だったみたいで"灰原くん推し"になった。
 
そんな灰原くんに対して恋愛感情は全くなく、普通にアイドルを応援する気持ちと同じらしい。
『推しには恋しないことにしたの。純粋に推しのために何かしたい。私が手取り足取り灰原くんをサポートしてあげるんだ!』と張り切っていた。
私としては、望が楽しく過ごせているのが一番だ。

自分の推しのピンチを目ざとく察知した望は、彼を助けるべく隣のテーブルに移動した。

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