エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

「そういえば、うちの子初めて寝がえり打ったんだよ」
「その瞬間を見れたんですか?」
「いや、嫁さんが動画で送ってきてくれたんだけど、マジで感動したわ」
「赤ちゃんて本当に可愛いですよね」
 
私を励ます会は最初だけ、気が付けば自分の子供の話や趣味の話、恋人の話などがあちこちで飛び交う。
最初にいた場所から移動する人もいて、普通の飲み会になっていた。
私のために集まってくれたというのが申し訳なかったので、みんなが普段通り盛り上がっているのを見てホッとしていた。

「ビールお待たせしました」

店員からグラスを受け取り、ビールを飲んでいたら背後に人の気配がした。
 
「ここいいか?」
「どうぞ……ッ!」

返事をしながら顔を上げて声の主を見ると、心臓が飛び出るぐらい驚いた。
望が移動して空いた場所に営業部長の久住恭二さんが座ったからだ。
ど、どうして部長が?

この座敷には大きなテーブルが二つ並んでいて、久住部長は向こう側にいたはずだけど……。
よく見るとさっきまで部長がいた場所に丸岡さんという男性が座っている。
もしかして部長が席を外している時に座られて移動する羽目になったのかな。

それよりも、飲み会では久住部長はいつも離れた席にいたのに、今は私の隣に座っている。
こんなのは入社して初めてのことだ。

自分が置かれている状況にソワソワしてしまう。

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