エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

バーに迷惑をかける前に退散しよう。
洋輔に『出よう』と合図すると『了解』と親指を立てた。

『別に三条さんのことは眼中にないから比べるつもりはサラサラないけど、琴葉の何がいいってすべてだよ。三条さんには分からないと思うが』

言いたいことを言って席を立とうとしたとき、三条の娘がチッと舌打ちした。

『何なのよ。いつもあの女は澄ました顔をして努力もせずに私の欲しいものをすべて手に入れてムカつくっ。ピアノのコンクールでもあの女は入賞して笑顔で花束を受け取っていたわ。中学受験に失敗した私をあざ笑うようにあの女は名門の中学に合格して……』
『なんだそれ。被害妄想も甚だしいな。琴葉ちゃん、何も悪いことしてないじゃん。ただの妬みだろ』

怒りの矛先を琴葉に向けていた三条の娘に、洋輔が呆れたように呟く。
それについては俺も同意だ。

自分の周りで琴葉と比べられるからといって、何もしていない彼女を攻撃する必要はないだろ。
受験に失敗したのだって、琴葉には関係のないことだ。
他人を妬むことしかできないのか、と呆れてしまう。
琴葉は三条の娘とは関わりたくないと思っているはずだから、いいとばっちりだ。

『うるさいわよ。私はいつもあの女と比べられていたの。HYM商事の娘は優秀なのに三条の娘は……っていつもいつも!何をやってもあの女には敵わなかった』
『だから、琴葉と付き合っている俺に執着してたってわけか』

おかしいと思っていた。
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