エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい

「嘘だ~。ドッジとかしても逃げてる最中に足がもつれて転んだ時にボール当てられそう」
「どういうイメージよ。最悪じゃん。私、望が想像してるほど鈍臭くないからね」

頬を膨らませながら、卵焼きを箸で掴む。

「でもさ、あんな近距離から豪速球が飛んできてキャッチできる気がしないわ」
「確かに女子でも剛腕がいるからね。そういえば、小学生の時に何を血迷ったかキャッチしようとして顔面にボールが当たったことがあるわ」
「大丈夫だったの?チャレンジャーすぎるんだけど」

あっけらかんと言う望に苦笑する。

「大丈夫だったけど、鼻血が出て保健室行きよ。でも、そのボールを投げた子がドッジの日本代表に選ばれたんだよ」
「嘘っ、凄いね」
「でしょ。その子に会うたびに日本代表のボールを顔面で受け止めたってネタにしてるわ」
「なにそれ」

そんな他愛もない話をしながらご飯を食べていたら、一人の男性が近寄ってきた。
営業部の伊藤さんだ。

「ここ、いい?」

トレーを手にした伊藤さんが望の隣の席を指差した。
二人掛けのテーブル席が空いていなかったので、私たちは四人掛けの席に座っていた。
伊藤さんは同じ部署の先輩だし、断る理由もないので望は隣の椅子を引く。

「どうぞ。うるさい女二人と同席でよければ」

望が笑いながら言う。
私はそこまでお喋りではないのに、うるさい女として一括りにされたのは多少引っ掛かるけど。


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