エリート御曹司は失恋した部下を溺愛したい
「そうだね。食生活では母親に助けられたけど、父親にもいろんな面で世話になったから親孝行したいと思っているんだ」
「うわー、さすが伊藤さん!言うことが違いますね。人間性が高すぎる」
望が感嘆の声を上げて「ね、凄いよね」と同意を求めてくるので私は頷いた。
親孝行したい、なんて心の中で思っていてもなかなか人前で口にすることはない。
伊藤さんが堂々と言ってのけるのは、ある意味凄いなと思う。
「そんなことないよ。部活していたら道具やユニフォームとかだけでも金がかかるだろ。それに、俺の高校は私立じゃなかったから遠征用のバスがなかったんだ。だから遠征費も馬鹿にならなくてね」
「あー、なるほど。そういえば私立は専用のバスを所有してますよね。私もバレーの試合会場で何とか高校って書いてあるバスを見たことがあります」
「あれ、羨ましいよな」
「分かります~」
そのあとも伊藤さんと望は運動部同士で盛り上がり、私は二人の話を聞きながら弁当を食べ終えた。
「そろそろ戻ろうか」
声をかけてきた伊藤さんはあとから食べ始めたのに、お皿には米粒一つも残っていなかった。
「そうですね」
望が立ち上がり、トレーを持ち上げる。
二人が食器返却棚にトレーを運んでいる間に私は入口に向かった。