拾った相手は冷徹非道と呼ばれている暴君でした
――人には親切に生きなさい。
それが母が残した、最期の言葉だった。
「いや〜助かったよ。ありがとうエレナ」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
「お礼に野菜持っていって」
「わぁ!こんなにいいんですか?ありがとうございます!」
ガルティア帝国の南端にある小さな田舎町。
町へ買い物に来ていたエレナは大量に渡された野菜を受け取って、歓喜の声をあげた。
今日はいつもより早く外へ出てみたら困っているウェンディおばさまを見かけて、そのお手伝いをしたらお礼に野菜を沢山貰えた。なんてラッキーな日なのだろう。
『人には親切に生きなさい。全ての物事は巡り回っていつか自分へ返ってくるから』
それが、今は亡き母が残した最後の教えだった。母が居なくなった日から八年経った今も、ずっと守り続けていることでもある。
ウェンディおばさまにもう一度お礼を伝えて、エレナは裾を翻す。生暖かい風が頬を撫でて、サラりとシルバーの髪が揺れた。
空が澄み渡り、太陽が輝いている。紫水晶の瞳を細めて息を吸い込んだ。
何だか今日はいい日になりそうな予感がした。
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