拾った相手は冷徹非道と呼ばれている暴君でした


それから三日。脅威の回復力を見せた男は、もう普通に歩けるほどになっていた。
初めはエレナを警戒しまくっていた男も、少しはこの環境に慣れたのか会話が成立するようになった。

「どこへ行く」
「町まで行ってきます。栄養ドリンクを作ったのでウェンディおばさまにあげようと思って」
「……栄養ドリンク?」
「はい、体にいい材料で作った飲料です。健康にいいんですよ」

少し離れた所からじっと見つめてくる男に向かってエレナは鍋をかき混ぜながら説明する。

ウェンディおばさまがこの前、腰が痛いと言っていた。だから少しでも良くなりますようにと願いを込めながら作った物だ。

「スープと薬はそこのテーブルに置いてあります。……無理はしないでくださいね」

鍋から小さな瓶へ流し込み、鞄に詰めた。
本当は町へ行くには少し早いけれど、男が出ていくためには自分は席を外していた方がいいとエレナは判断した。




「……あら?」

しかしエレナの予想とは反対に、家へ戻ると、男はまだそこに居た。水浴びをしたのか髪が濡れている。
怪我が治ったからてっきり出ていくとばかり思っていたのに。

「帰らなかったんですか?」
「出ていってほしいのか」

思わず零れた言葉に、男は不機嫌そうな表情で眉間に皺を寄せた。

「そういうわけではないけれど……貴方はここがあまり好きじゃなさそうだったから」
「……アル」
「え?」
「貴方じゃない。アルだ」

脈略がなさすぎて理解が遅れてしまったが『アル』というのはどうやら彼の名前らしい。

「アルって呼んでいいの?」
「ふんっ、好きにしろ」


テーブルに置いてある薬草は相変わらず手を付けられていなかったけれど、スープの容器は空になっていた。


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