恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 不満そうなヴィルジールに向けてサラが呪文を唱え始める。

「そ、それは、黒魔法……なんで神官のサラが」
「神官になるためのカリキュラムで、黒魔法をひとつだけ覚えされられるんですよ。嫌々習得しましたけど、それがこんな時に役に立つなんて」
「嫌々っていう割に、なんで最強にして禁断の攻撃黒魔法なのさ!?」
「どうせ覚えるなら最高難易度に挑戦したまでです!」
「サラってば真面目すぎぃっ」

 言っている間に、サラの手の内でみるみる闇色の球体が膨れ上がっていく。

「わ、ちょっとタンマ!」
「死にたくなかったら出て行って!」

 魔法が発動する直前に、ヴィルジールはぱっと姿を消した。
 手に集まった黒い光を収束させると、サラは大きく息をつく。

「あのサラさん、ヴィルジールさんが言ってたことって……」
「いずれ分かると思うから……今夜はゆっくり休みましょう」

 誤魔化すようなその言葉に、アメリの中で不安だけがくすぶった。
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