恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第31話 瑕(きず)

 先ほどからずっと、誰かがアメリの髪を撫でている。
 大きな手に、心地よい安心感で満たされた。
 これは昔の夢に違いない。
 母親が生きていて、父親がまだ、アメリに優しかったころの――

 目頭から鼻を伝って横切った涙が、落ちた枕へしみこんでいく。
 なぜ泣いているのかも分からないまま、アメリは浅いまどろみからまぶたを開いた。

「ロラン……?」

 すぐ目の前にロランの顔があった。向かい合って、同じ枕に頭を沈めている。
 親指の腹で涙を拭うと、ロランはぎゅっとアメリを強く抱きしめてきた。

「アメリ、無理をさせてしまったな」

 頭を撫でてくる手に、あれはロランだったのだとアメリはぼんやり思った。
 うれしいようでいて、やっぱり少し悲しいような。自分でもよく分からない小さな(きず)が、心のどこかでわだかまる。
 ロランの手がそのままの素肌の背中を滑っていく。
 裸で抱き合っていることに気づいたアメリは、今の状況をようやく思い出した。
 ロランを受け入れた奥が、じんじんと鈍い痛みを訴えている。いまだ異物が挟まっているような、そんな不思議な感覚だ。

「体はつらくないか? 君は初めてだったのに、すまない……つい調子に乗った」
「あ、いえ、聞いてたよりも痛くはなかったので。それに……」

 すごくだるいのに、体は熱が残ったままだった。
 昨夜の感覚が思い起こされて、夢見心地でアメリはうっとりとつぶやいた。

「すごく気持ちよかったです」
「なっ! まったく君はどうしてそう言う……」

 どこか怒ったように言われ、何かまずかったかとアメリは不安にかられてしまった。
 しかしロランが押し付けてきた下半身の膨らみに、その意味を正確に理解する。

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