恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 萎えたロランがずるりとアメリの(ナカ)から零れ落ちる。
 叱られた子どもみたいなロランを見て、アメリはくすくすと笑い出した。

「いいんです。あの日はロラン、寝ぼけてたんでしょう? もう仕方ないです」

 ほっとしたようにロランはアメリの体を起こしてくる。

「浄化の虹を」

 ロランが短く言うと、ベッド全体がまぶしい光に包まれる。
 べとつく体も湿ったシーツも、あっという間にサラサラに変化した。

「ロランって魔法も使えたんですね」
「ん? ああ、浄化魔法は冒険者なら必須だからな」

 魔法が使えるかどうかは、血筋だったり素養だったりいろいろだ。
 しかし冒険者だから使えるというより、使えるから冒険者になったという方が正しい見方だった。

「やっぱりわたしなんかとは違うんですね……」

 ぽつりと漏らしたアメリに、ロランが訝しげな顔になった。
 それを感じたアメリは、取り繕うように笑顔を作る。

「ごめんなさい、わたし勘違いしちゃいそうで……でも大丈夫です。ちゃんと自分の立場は弁えてますから」
「それはどういう意味だ?」
「ロランがやさしくしてくれるのは、わたしが聖剣の乙女だからですよね? いなくなったら困るって、それだけの理由なのはわたしも分かっています」

 言いながら、サラサラになったシーツを握りしめる。
 これ以上は上手く笑えないような気がして、アメリは俯き加減でロランから顔を逸らした。
 はぁーとロランはこれ見よがしに大きなため息をついた。
 勘違いしそうだなどと、呆れられてしまっても仕方のないことだ。

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