恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「マーサたちが言っていた通りだ。君の自信のなさは筋金入りだな」
「きゃっ」

 弾むスプリングの上で、強く抱きしめられる。
 アメリの髪に唇をうずめながら、ロランは悔しそうに言葉をもらした。

「どうすれば俺の想いが伝わるんだ? 俺が意地を張っていたばかりに、君をこんなにも傷つけていたなんて……」
「それは違います……!」

 アメリは慌てて首を振った。
 自分がこんな性格なのはロランのせいではなかった。そのことはアメリ自身がよく知っている。

「ロランは何も悪くありません。わたしは子供のころからこうだから……」
「継母に家を乗っ取られた件でか?」

 聞きにくいことを聞いてくるような口調のロランを、アメリは不思議そうに見つめ返した。

「ああ……もしかしたらサラさんとの会話を聞いていたんですか?」

 いつか泊まった宿屋でアメリが夜食を作ったときのことだ。
 借りた厨房で、片づけをしながらサラに身の上話をした覚えがあった。

「すまない、盗み聞きするつもりはなかったんだが」
「いえ、特に隠していることではないですから。それにわたしが卑屈なのは、別にあの人たちのせいではないし……」

 それ以上は言葉にできなくて、アメリは唇を噛みしめた。

「聞かせてくれないか? アメリ、君を苦しめているすべてのことを」
「父が……」

 続けようとしても、言葉が詰まってしまう。
 再び強く抱きしめられて、ロランの手がやさしく頭を撫でてくる。

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