恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「母が亡くなってから、父はお酒に溺れて泣きくれるばかりで……どんなにわたしが頑張っても、父はわたしのことを見てくれなかった……」

 震える声でなんとか絞り出ていく。

「そんな日々が何年も続いて、継母(あのひと)たちが家にやってきました。そうしたら父もすっかり元気になって……わた、わたしじゃ、なんにも父の力になれなかったんだって……そう思ったら、自分がここにいる意味がわからなくなってしまったんです……」

 これまで誰にも話したことない胸の内だ。
 結局死ぬ間際まで、アメリは父親の関心の外だった。
 アメリの瞳から涙がすべり落ちていく。
 そんなアメリの髪の上、ロランは愛おしそうに口づけを落としてきた。

「つらい話をさせた」
「いえ……ロランに聞いてもらって……わたし……」
「ああ、君には俺がいる。もう絶対にひとりにしない」
「ロラン……」
「言っておくがこれは同情なんかじゃないぞ。君が聖剣の乙女だからでもない」

 そう言ってロランはアメリの頬を両手で包み込んだ。

「君が君だからだ、アメリ」

 アメリの瞳が大きく見開かれる。

「愛している、アメリ。俺の言葉を信じてくれ」

 溢れる涙でぼやけたまま、アメリはロランにうなずき返した。
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