恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第32話 変われない自分

 ロランの怪我も無事に回復し、一行の旅は再開されることになった。
 宿を出る前に、アメリはフランツを呼び止める。

「あのフランツさん。これ破れたところ繕っておきましたから」
「ああ、悪いなアメリ。しかし器用なもんだ。どこを縫ったのか全く分からんぞ」
「いえ、別にたいしたことじゃ。これくらい誰にだってできますし」
「いやいや、そんなことはない。マーサなんかは何をやらせても破壊しかできないからな」

 ぶふっと笑いをもらすフランツに、アメリは困った顔を向けた。

「でもマーサさんは魔物相手に勇敢に戦えますし。わたしの方がよっぽど役立たずで……」
「まだそんなことを言ってるのか? アメリが加わって俺は大いに感謝してるんだが」
「え? 感謝、ですか……?」
「ああ、アメリが来る前は何と言うかこう、俺たち関係がギスギスしていてな。みんなアクの強いヤツらばかりだろう? それがアメリがいるおかげで場が和むようになって助かっている」

 潤滑油のような存在ということだろうか。
 そんなふうに感じてもらえていることに、アメリはなんだかむずがゆい気持ちになった。

「おっはよう、アメリ。朝からご機嫌じゃん。なんかいいことあった?」
「おはようございます、マーサさん。いえ、ちょっと……」
「あ、ねぇ、アメリ。夕べもサラと同部屋だったんだって? なんでロランとこ行かないワケ?」
「そ、それは……」

 アメリとロランが両想いになったと言うことは、メンバー全員に知れ渡っていた。
 というより、むしろロランがまったく隠そうとしていない。フランツやヴィルジールにまでアメリに近づくな宣言をして、アメリはただ呆気に取られてしまった。
 アメリが返答に困っていると、フランツがまたぶふっと吹きだした。

「ロランのヤツ、同じ部屋にいたら絶対に我慢できないからってことらしいぜ? ま、朝までヤってたら旅に支障が出るからな」
「確かにアメリの体力じゃあねぇ。ロラン相手じゃ起き上がれなくもなるか」

 明け透けなふたりの言葉に、アメリは口をパクパクして真っ赤になった。

< 106 / 135 >

この作品をシェア

pagetop