恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 どうやらタマゴウサギという魔物らしい。
 この前の食人植物の騒ぎもあって、アメリはサラに魔物の知識を教えてもらうようになった。
 自衛のためにも、もっと正しい知識が必要そうだ。何よりロランに余計な心配をかけたくはなかった。
 そう考えれば、サラと同じ部屋であるのも悪いことではないと思えてくる。
 ロランと一緒にいたいという自分のわがままを、表に出してはならないとアメリはひとり頷いた。

「アメリ……」

 真剣な声音のロランが耳元に唇を寄せてくる。
 何事かと不安にかられつつも、アメリも黙って頭を傾けた。

「次の街で依頼をこなしたら、怪我の有無にかかわらず同じ部屋に泊って欲しい。俺もそろそろ我慢できそうにない」

 ぼっと頬に熱が集まるのが分かった。誰にも聞かれていないことを確かめて、アメリはこくりと頷き返す。
 とたんに上機嫌になったロランがアメリの手をぎゅっと握ってきた。
 絡めあった指が恥ずかしすぎる。それでもアメリは振りほどくこともせず、しばらくロランと並んで歩いていった。

「そろそろお昼にしませんか?」

 サラの提案で、一行は脇の野原に腰を下ろした。
 宿屋で作ってもらった食事を平らげたあと、アメリはみんなにお茶をいれた。
 こういったとき魔法は便利だ。収納魔法でポットとカップを取り出して、お湯もぱっと沸かせてしまう。

「あ、夕べ厨房を借りてクッキーを焼いたんです。よかったら」
「わお! アメリってば気が利くじゃん」
「ありがとうございます、アメリさん」

 女性陣だけでなく、ロランたちもよろこんで手を伸ばしてくれた。そのことがうれしくてたまらない。
 クッキーを片手に、マーサが大きく伸びをした。

「はー、アメリがいてくれて、なんか人としての尊厳が保たれるわ」
「それは言えるな。これまでの旅は常に戦場って感じで殺伐としてたからなぁ」

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