恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 落ちた涙が足元の葉を揺らす。
 ロランはこんなにも真っすぐな愛を向けてくれているのに、変われない自分が嫌でたまらなくなった。
 嗚咽をもらすアメリの肩をそっと抱きよせ、ロランは自信たっぷりな表情でにやっと笑った。

「いいだろう、アメリに教えてやる。どれほど俺が君を思っているかってことを」

 耳元で囁いて、頬をやさしく包み込む。

「――俺の一生をかけて、な」

 ロランはアメリの唇のすれすれを、ちゅっと音を立てて(ついば)んだ。
 一瞬でアメリの涙が止まる。口をパクパクしたあと、ようやく赤くなった顔でアメリは抗議の声を上げた。

「こ、こんなところで……!」
「聖剣が出ると困るからな。気軽に君の唇を奪えないことだけが勇者でいる弊害だ」

 悪びれもなく返されて、アメリは再び言葉を失った。

 休憩も終わり一行は再び街道を行く。

「うんうん、あともうひと息って感じだね」

 並んで歩くロランとアメリの後ろで、ヴィルジールがたのしそうにつぶやいた。

「ヴィルジール? 今何か言いましたか?」
「ううん、何でもないよ、サラ」

 ヴィルジールは笑顔で返す。
 そんなときアメリが不思議そうに辺りを見回した。

「あれ? この景色、なんだか見たことがあるような……」
「そりゃそうだよ。もうすぐアメリの住んでた村だからね」
「え?」

 二度と戻らないと決めた故郷を目前に、アメリは思わず立ち止まった。
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