恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第33話 故郷の村

「おおい! ベルトランドさんとこのアメリが勇者を連れて帰ってきたぞ……!」

 村の入り口付近には人だかりができていた。懐かしい面々にアメリの中にほっとした気持ちが湧き上がる。
 ロランたちに若干気後れしながらも、村人たちはアメリを取り囲んできた。

「お久しぶりです、みなさん」
「アメリ、元気そうでよかった。いきなりいなくなるからびっくりしたわ」
「聖剣の乙女に選ばれたなら、わたしたちにも教えてくれればよかったのに!」
「すみません、何しろわたしも急なことだったので……」

 顔見知りではあるものの、そこまで親しくもなかった女たちが次々と話しかけてくる。しかし視線はちらちらとロランの方を向いていた。
 なにしろロランはこれだけの美形だ。こんな片田舎の村ではそうそうお目にかかれるものではない。女たちの熱い視線も仕方のないことだろう。
 ロランを自慢したいような誰にも見せたくないような、そんな複雑な気持ちになった。

 しかし故郷であったとしても、魔王討伐の旅の途中に変わりはない。これまで通り宿の手配が必要だった。
 知り尽くした土地だからこそ、ここはアメリが仕切るのが筋だろう。それが済んだら魔物被害の情報収集が待っている。

「とりあえずわたしが案内します。この村には宿屋が何軒かありますから」
「いやだわ、アメリ。天下の勇者様をひなびた宿に泊めるつもりでいたの?」

 一行を促したとき、向こうから艶やかな女の声が聞こえてきた。
 人だかりがぱっくり割れて、人目を引く赤毛の美女が現れる。

「相変わらず鈍くさいのね」
「ベリンダ……」

 好戦的で自信たっぷりの様子は昔から変わることはない。
 条件反射のようにアメリの心がきゅうっと締めつけられた。

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