恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「アメリ、彼女は……?」
「ベリンダはわたしの義理の姉です」
「あなたが勇者ロランね? 妹がお世話になってます」

 ベリンダは馴れ馴れしくロランの腕にしがみついた。わざとらしく胸を押しつけ、上目遣いをロランに向ける。
 ベリンダは村中の男たちのマドンナ的存在だ。彼女の手にかかれば落ちない男はいない。そう昔から評判だった。
 ロランの隣にいても、ベリンダはまったく引けをとっていなかった。それどころかお似合いのふたりのようにアメリの目には映った。

「悪いが離れてくれないか? べたべたと触れられるのは好きじゃないんだ」
「あら、案外奥手なのね」

 妖艶に笑うと、余裕たっぷりにベリンダはロランの腕から手を離した。

「風の噂で勇者一行が近くに来ているって聞いていたの。わたしの屋敷でもてなしの準備はできているわ。遠慮なく泊って行って」
「ということは、アメリの家か?」

 一度は別れを告げた思い出の家だ。
 戸惑いながらもロランの問いにアメリは小さく頷き返した。

「やだ、アメリはもう出ていった子よ? でもそうね。仕方ないからアメリも泊めてあげる」
「そうしてくれると助かる……ありがとう、ベリンダ」

 高飛車な物言いに、ロランの顔が険しくなった。しかしアメリを立ててか、それ以上ロランは何も言わないでいてくれた。
 ベリンダの機嫌を損ねて、いいことがあった試しはない。自分が我慢すればいいだけのことだと、アメリはいつも通り何も考えない道を選んだ。

「まぁ、ようこそいらっしゃいました。ベリンダの母のデボラですわ」

 迎え出たのは継母だ。
 気取った態度で挨拶をしてきたが、一行の間ではがめついオバハン認定されている。

「あらアメリ、いたの。ちょうどいいわ、みなさんを居間にご案内して」

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