恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 当然とばかりに言いつけられる。この家でそれを許してきたのはアメリ自身だった。
 気づくとアメリは、一行を歓迎する準備まで率先して手伝っていた。みんなのために動くのは、アメリにとってよろこばしいことだ。

 ご馳走が並び、歓迎の食卓は豪華な席となった。
 自分が生まれ育った家でロランたちがくつろいでいる。
 そう思うと、なんだかすこし不思議な気分だ。

「アメリの村だけあって、今回はすんなり受け入れられて助かったな」
「いつもならなかなか信じてもらえませんものね」
「そうよねぇ、ニセ勇者のお陰であたしら信用ガタ落ちだし? 下手すると最後までニセモノ扱いされるしさ」
「それなら僕にも感謝してほしいな~。アメリを迎えに来たとき結構苦労したんだよ?」

 上機嫌な一行を見て、アメリはこれでよかったんだとうれしく思った。
 そんな中ベリンダはロランにべったりだ。それを止める理由は自分にない気がして、アメリは宴の席からひとり抜け出した。

 家の中はアメリがいた頃の面影はほぼなくなっている。見たことのない家具が並んでいて、まるで知らない家のようだ。
 アメリが家を出るときに、ヴィルジールがかなりの金額を手渡していた。ベリンダたちのことだ。それを元手に買い物三昧の日々を送っているのだと、アメリは妙に納得してしまった。

 アメリが使っていた部屋もすっかり物置になっている。
 ここはもう自分の家ではないのだと、改めてアメリは思い知らされていた。
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