恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第34話 家

 ふと台所の方で言い争う声が聞こえてくる。
 どうやら継母デボラと使用人数人が言い合っているようだ。

「どうかしたんですか?」
「どうもこうもないよ! この女、人を雇っといて金を払う気はないと抜かすんだ!」
「当り前よ! わたしは勇者様方をおもてなししているのよ? あなたたちも無償で働くのは当然でしょう?」
「ちょっと待って。この人たちは住み込みで働いているんじゃないの?」
「住み込みでなんて雇うわけないじゃない。そんなのお金の無駄よ」

 昔は使用人は何人もいたのに、アメリにただ働きさせていた流れで金が惜しくなったようだ。
 家具は新調されても家の傷みが目立っているのは、目先の贅沢ばかりに溺れているからなのだろう。

「いや、無駄とか言ってないで、賃金はしっかり支払ってあげて」
「そうだよ! こっちはあんたたちの寝室まで片付けてやったんだ! それこそシミだらけの(きった)ないシーツまでね!」

 使用人も雇わず、継母たちは日々金をケチってきたのか。
 そう思うと呆れもしたが、長い間アメリが何でもやってしまっていた。それも問題だったのかもしれない。

「なんてがめつい女たちなの!」
「がめついのはアンタの方だろうが!」
「つべこべ言わずに片付けまでやっていきなさい。朝までには終わらせるのよ」
「話になんないね! もう帰らせてもらうよ!」
「そんなの無責任すぎるでしょう!? ちょっと待ちなさい……!」

 継母の横暴ぶりに、さすがのアメリも声を荒げてしまった。

「無責任なのはどっちなの! これじゃあこの人たちにあんまりよ!」
「なによ、アメリのくせに。わたしに口答えしようって言うの?」

 委縮しそうな心で、それでもアメリは引かなかった。
 しばらくにらみ合っていると、デボラは面白くなさそうにふんと鼻を鳴らした。

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