恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第35話 裏切り

 朝早くにやってきた女たちに継母が給金を支払うのを見届ける。
 寝不足のまま翌日を迎えたアメリは、ほっと息をついていた。

 ほとんど寝ていないが、ピカピカになった台所同様アメリの心もなんだかすっきりしている。
 過ぎてしまったことはもうどうにもならない。アメリには魔王討伐の旅という大事なお役目があるのだ。
 これからはそのことだけを考えて生きていこうと、気分も新たに一日が始まった。

 まずは村民からの聞き取り調査が行われ、魔物の被害などを確認をしていく。
 その結果、魔物退治には数日かかりそうだという結論に至った。

「今回はアメリん家に泊めてもらえるから、経費削減できて助かるよ~」

 一行のお財布はヴィルジールが管理している。
 魔王討伐でかかった経費は領収書をもらった上で、後日支給されるらしい。国を挙げての大仕事のわりに、世知辛いとしか言いようがない。

「よし、我ながら美味しそう。ちょっと張り切りすぎたかな」

 人数分のお昼ご飯をバスケットに詰める。今回は一から自分で作ったので、喜んでもらえるといいなとアメリは半ばピクニック気分だ。
 今日の依頼は数が多いだけで弱い部類の魔物と聞いたため、余計に浮かれてしまうアメリだった。

「あ、アメリ。ちょうどよかったわ」

 台所を出てみんなが待つ玄関へと向かう途中でベリンダに呼び止められた。
 今起きましたという気だるげな感じで、少々着乱れた姿で歩み寄って来る。

「何? 今から魔物退治に行かなきゃならないんだけど」
「ああ、そうなの。コレ、ロランがわたしの部屋に忘れてったから、アメリに渡してもらおうと思ったのに」
「え……?」

 ベリンダが手にしているのはロランのシャツだった。

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