恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「どうしてベリンダがそんなもの……」

 言いかけてハッとする。
 シャツの襟辺りに、真っ赤な口紅の跡がべっとりと付いていた。

「ふふ、彼、サイコーね」

 ベリンダは上気した頬で、何かを思い出すようにうっとりとため息をこぼした。

「顔も声も好みだけど、特に鍛え上げられたあの体……体力も持久力も抜群だし、村の男たちと何もかもレベルが違っていたわ」
「なっ……!」

 思わせぶりに、ベリンダは自分の唇を舌でなぞっていく。

「ね、知ってる? 彼、脇のところにホクロがあるの。それがまたセクシーでたまんなくって」

 そのホクロの位置はアメリにも覚えがあった。耳を疑ったまま言葉を返せない。
 そんなアメリに、ベリンダは勝ち誇ったような顔を向けてきた。

「まぁ、いいわ。あとで直接ロランに返すから。あ、アメリ。今夜も部屋で待ってるって、そうロランに伝えておいて」

 妖艶な笑みを残し、ベリンダはさっさと行ってしまう。
 バスケットを抱えたまま、アメリは呆然と廊下で立ち尽くすしかなかった。

「あ、いたいた、アメリ! こんなトコで何してんのよ」
「え、あ、マーサさん……」
「ん? なんかアメリ顔色悪くない?」
「い、いいえ。大丈夫です」
「あ、コレお昼ご飯!? 重くて運べないなら早く言ってくれればよかったのにぃ」

 ひょいとバスケットを取り上げると、マーサはすたすた行ってしまう。
 その後ろをアメリも足取り重くついて行った。

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