恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「よし、揃ったな。行こうか」

 ロランの号令で、一行は目的地である村の外れの森に向かった。
 こういったときロランは勇者の顔になる。口数も極端に少なくなって、表情も怖いくらい真剣だ。
 魔物退治は生死と隣り合わせだ。今は問いただす場面ではないと、アメリは泣きそうになるのを必死に耐えていた。

「今日の仕事は楽勝よね。タマゴウサギなんて魔物のうちに入んないし」
「え、今日はタマゴウサギの討伐なんですか?」
「そ。さっさと片付けて、アメリのお昼食べなくっちゃ!」
「でもタマゴウサギって、普段は人を襲ったりしないんですよね……?」

 サラから教えてもらった魔物情報だ。
 タマゴウサギは卵を抱えているときだけ、近づくと狂暴化する。言い換えれば刺激さえしなければ、無害と言って差し支えなかった。
 多少魔力を持っているというだけで、生態としては野生動物レベルの魔物と言えた。

「なんでも村の開拓に邪魔なんだってさ。森に入った人間が何人も怪我させられたって話だよ?」
「アメリさんのお父様が事業をされていたときは、森を保護する形を取っていたそうなんですが……」
「父がそんなことを……?」
「ええ。でも今は村の人口が増えてきて、森から魔物を駆除するのも仕方のない措置とのことで」
「ま、指導者の世代交代で方針転換するのは、珍しくない話だよね~」

 ヴィルジールの言葉も尤もだが、魔物とはいえ人間都合で住処を追われるのはやるせない気もする。
 普段無害と来れば尚更だ。

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