恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「それにしてもアメリさんのお父様はとても立派な方だったようですね。村で聞き取りをしていて、今も皆さんから尊敬されてるって感じました」
「そうですか……ありがとうございます、サラさん」

 最期まで心を通わせることができなかった父親だ。それでも他人に褒められて悪い気はしなかった。
 やっぱり自分は父のことが大好きなのだ。夕べのこともあって、そう思うとなんだかアメリは増々切なくなった。

「アメリ……顔色があまりよくないようだが……」

 ふいにロランに話しかけられ、アメリの顔が強張った。
 先ほどのベリンダの得意げな顔が頭から離れない。

「別に、普通です」
「しかし、昨夜は結局戻ってこなかったろう? 結構遅くまで居間で待っていたんだが……」

 それで待ち切れなくなって、ベリンダとよろしくやったという訳なのか。
 叫び出しそうになるのを堪え、アメリはロランからぷいっと顔を背けた。

「すみませんっ、疲れてたので先に休ませてもらいました」
「そ、そうか。アメリが休めたのならそれでいいんだ」

 白々しい言葉に、怒りでどうにかなりそうだった。
 唇を噛みしめ、アメリはぎゅっと拳をきつく握りしめた。
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