恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第36話 折れた聖剣

「アメリ……君はやはり体調が悪いんじゃないのか……?」

 不自然に距離を取ったアメリにロランが戸惑いの顔を向ける。
 そのとき茂みがガサガサと揺れて、一本角の生えた白いモフモフたちが何匹も飛び出してきた。

「ここらが巣の中心みたいだね。魔物が嫌がる煙魔法使ったから、もっとわんさか出てくるよ。みんな気をつけて~」
「よし! アメリ、来い!」

 一気に緊張感が高まった。殺気立った魔物を前に、アメリも嫌だなどと言ってもいられない。
 全速力でロランに駆け寄ると、アメリは自ら唇を差し出した。
 ロランの唇が触れ、アメリの掌で耐えがたい熱が膨れ上がった。眩い光の中から、ロランが聖剣を抜き去っていく。

 初めは慣れなかった感触だ。
 しかしアメリは最近気づくようになった。
 傷みすら感じていたこの瞬間が、アメリの最奥に穿たれたロランの昂ぶりを、乱暴に引き抜かれる快楽そのままであることに。

「んぁあっ」

 そんな場合ではないというのに、走りぬけた快感に思わず身を震わせる。

「アメリさん、早くこちらへ!」

 サラのひと声に我に返った。
 急いで戦線から離れると、視界がくらりと歪んでアメリの足元がふらついた。

「アメリさん……!」
「大丈夫です、夕べあまり眠れなかっただけなので……」
「でも顔色が……ロラン! わたしはアメリさんを連れて先に戻ります!」
「ああ、そうしてくれ。サラがいなくてもこっちは問題ない」
「でも……」

 サラは防御魔法と回復専門の白魔法の使い手だ。
 何かあったときそばにいないのは危険すぎるというものだろう。

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