恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 何しろアメリに男性経験はない。恋人すらできたことはなくて、何をどうしたらいいのかさっぱりだ。
 とりあえず看病といえばと思い、枕元にあった布で汗を拭ってみた。

「熱い……」

 その熱さに驚いて、自分の冷えた手をおでこに添える。
 アメリの(てのひら)が気持ちよかったのか、ロランの表情がいく分か和らいだ。
 端正な顔を覗きこむ。そんな場合ではないというのに、アメリは思わずロランに見惚れてしまった。

「ほりが深くて鼻筋も通ってて……まつ毛もすごい長い……」

 勇者でなくとも女たちが群がるのがよく分かる。
 恋をしたことがないアメリでも、見ているだけでドキドキしてきてしまった。

 身じろいだロランに驚いて、乗せた手を思わず離す。それを制するように、ロランの大きな手がつかみ取ってきた。
 握ったままのアメリの掌を自分の頬に当て、ロランはひとつ息をついた。続けてすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。

「ちょっと楽になったみたい……?」

 冷たい手で楽になったのだろうか。ベッドのふちに腰掛け、アメリは両手でロランの頬を包み込んだ。
 しばらくそのままでいたが、ロランはずっと眠ったままだ。

 苦しそうだった表情が和らいでいるように思えても、体はまだまだ熱かった。
 傷が癒える様子もなくて、これ以上何をすればいいのかとアメリは途方に暮れてしまった。

「やっぱりサラさんを呼んでこよう」

 このまま自分がこうしていても、ロランが回復するようには思えない。
 頬から手を離して立ちあがろうとした瞬間、手首をつかまれアメリは強く引き寄せられた。
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