恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第8話 乙女の癒し

「本っ当にすまなかった」

 (じか)に座った床で深々と頭を下げ続けるロランのつむじを、アメリはベッドの上から見下ろしていた。
 この状態になってしばらく経つが、一向にロランは顔を上げようとしない。

 顔面を蹴られたロランは背中から転がり落ちて、頭を打ちつけた拍子に正気を取り戻した。
 半裸のアメリと目が合って、次の瞬間目にも止まらぬ速さでアメリの体をシーツでぐるぐる巻きにした。
 次いで床でひれ伏しかと思うと、この土下座タイムが始まった。

「わたし相手にそこまで謝らなくても……」

 勇者と言えば国民憧れの英雄だ。
 それに比べたらアメリなど、虫にも等しい存在だろう。

「勇者は寝ぼけてたんですよね? 好きでやったわけじゃないのはわたしも分かってますから」
「いや、君のその姿を見れば、俺が何をしたのかは容易に想像できる。寝ぼけていたからと言って許されていいことじゃない」

 下におでこがくっついているロランは、まるで床に話しかけている勢いだ。
 包帯が巻かれた背中にも血がにじんでいるのが見える。ベッドを降りたアメリはロランの横で膝をついた。

「とにかく顔を上げてください。怪我してるんですよね? 傷がいっぱいあるってヴィルジールさんに聞きました」
「ヴィルの奴、余計なことを……」

 苦々しい声とともにロランはようやく顔を上げた。
 眉間が赤く腫れあがっている。初めは床の跡かと思ったが、アメリの蹴りのせいであるのは間違いない。

「なんだ? 傷が……」
「ご、ごめんなさいっ、わたしが思いっきり蹴ったから」
「いや、違う。体の傷が治っているんだ」

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