恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 言いながらロランは腹の包帯を解いていく。血がこびりついていた部分の皮膚は、傷があったとは思えないほどつるんとした肌だった。
 腕を上げたり背中を覗き込んだりして、ロランは体のあちこちを確かめるように見回した。

「やはり傷がすべて消えている。何をしても絶対に治らなかったのに」
「一体どうして?」
「乙女の力だ……」
「オトメノチカラ?」
「ああ、聖剣の乙女、君が俺の傷を癒したんだ」

 じっと見つめられ、アメリはぽかんと口を開けた。

「え? でも、だって、わたし何もしてな……」

 言いかけてヴィルジールの言葉が頭をよぎる。

 ――アメリが性的快楽を得れば、ロランの怪我は綺麗さっぱり治るから

「へ……え、わ、わたし……」

 先ほどロランにされたことを思い出し、アメリの顔が真っ赤になった。
 つられるように頬を染め、ロランはすっと目を逸らした。

「まぁ、そういうわけだ」
「そういうわけって、そんな……!」

 顔どころか今やアメリは全身真っ赤っかだ。
 勇者(ロラン)の傷が癒えたということは、乙女(アメリ)が気持ちよくなった証明でもある。こんな恥ずかしいことがあって許されるのか。

「も、もしかして、勇者が傷を負うたびにこれをしないとダメなんですか!?」
「できる限り怪我をしないよう心掛ける」
「そんな……」

 呆然と胸元のシーツを握りしめる。

「すまないがそれで納得してくれ」

 不本意そうに言ったロランは、小さく苛立ち混じりのため息をついた。
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