恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「もし間違いだったりしたら、わたしは村に追い返されるんですか?」
「それは絶対にないよ。この僕、大魔導士ヴィルジール様の魔術探査に間違いなんてあり得ないさ」
「だったらわざわざ今確かめる必要はないんじゃないか?」
「駄目だよ。どうやって聖剣が現れるか、ちゃんと確認しとかないと」

 戦闘中にあたふたはしたくない。
 ヴィルジールにそう言われ、ロランは渋々といった感じでアメリに向き直った。

「本当にいいんだな?」

 大きな手を肩に乗せられて顔を覗き込まれる。
 その近さに驚きつつも、アメリは素直に頷いた。

「自分が本当に聖剣の乙女なのか、わたしもちゃんと確かめたいです」
「分かった」

 難しい表情のまま、ロランはぐっと顔を近づけてくる。

「目をつぶってくれないか?」
「目を? どうして?」
「どうしてって……やりづらいだろう」

 ロランは怖いくらい真剣な顔をしている。何をするつもりか知らないが、言われた通りにまぶたを閉じた。
 聖剣を取り出すには、何か儀式が必要らしい。
 薄目を開けるとロランの顔がすぐそこにまで迫っていた。今にも触れそうな唇に、アメリはとっさに頭を大きくのけぞらせた。

「なぜ逃げるんだ?」
「なぜって近すぎます」
「近づかないとできないだろう」
「できないって、何を?」
「聖剣を呼び出す儀式に決まっているじゃないか」

 にらみ合ったまま沈黙が訪れる。
 根負けしたのはロランの方だった。

「もしかしてやり方を聞いていないのか?」
「何も」

 その途端、ロランはヴィルジールに怒りの顔を向けた。

「話が違うぞ」
「だって怖気(おじけ)づかれても困るじゃない」

 不穏なやり取りを前にして、アメリの胸に不信感が湧き上がる。

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