恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「アメリさん……さっきはロランがごめんなさいね。普段はあんなきつい言い方をする人じゃないんだけれど……」
「いえ、いいんです。勇者の言うことは間違ってないですし」

 勇者の剣をその身に宿す聖剣の乙女は、ほかの誰よりも魔物の標的になりやすい。
 非戦闘員でありながら、勇者のそばを離れられないのはそう言う理由からだった。

「それにしたってもうちょっと言い様が」
「本当にいいんです。わたし気にしてませんから」

 勇者は何も悪くない。
 アメリみたいに地味な女が、聖剣の乙女に選ばれたのが間違いだったのだ。

「ロランのアレはただの照れ隠しさ。ほんと、お子様で困っちゃうよね」

 割って入ったヴィルジールが、やれやれと肩をすくめてきた。

「そんなことあるわけないじゃないですか」
「どうして? 昨日、アメリはちゃんとロランの傷を癒せたんでしょ?」
「ヴぃ、ヴィルジールさん!」

 黒マントをむんずとつかみ、アメリはヴィルジールを脇道に引っ張り込んだ。

「わ、アメリってば大胆」
「ふざけないでください! サラさんの前であんな話するなんて!」
「あんな話って。聖剣の乙女の役割は周知のことだよ? 今さら隠してどうするのさ」
「そ、それでもみんなのいる場所でされたくないです」
「ふうん? アメリ、恥ずかしがりなんだ」

 そういう問題じゃないと叫びそうになったとき、アメリの手首を誰かがつかみ取った。

「おい、こんなところで何をしてる。離れるなと言っただろう」
「ご、ごめんなさい……」

 無表情のロランに、アメリの委縮に拍車がかかる。
 そんなアメリを前に、ロランは舌打ちとともに手を離した。

「とにかく行くぞ」
「……はい」

 小さく返事をして、とぼとぼロランを追っていく。
 あれのどこが照れ隠しと言うのだろうか。嫌々な態度が丸見えとしか思えない。

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