恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「子供だな~。ロランってば、嫉妬心丸出しだし」
「いい加減なこと言わないでください」
「そんなことないさ。だってアメリはロランの乙女だよ? ほかの誰にも触らせたくないんだって」
「あり得ません。昨日だって、絶対に怪我しないようにするって勇者に言われましたから」
「えー、本当にぃ?」

 むすっと頷いて、ヴィルジールのそばを離れた。

 ロランが怪我をしないと誓ったのは、アメリに触れる機会など作りたくないからだろう。
 何しろ傷を癒すには、アメリの体を喜ばせなくてはならない。ロランにしてみれば、屈辱以外の何物でもないはずだ。

 アメリの気持ちを察したのか、サラが壁になってヴィルジールを遠ざけてくれた。

「ヴィルジールに何を言われたんですか?」
「いえ、大したことじゃありません」

 これ以上は突っ込まれたくない。
 話を逸らそうと、アメリは違う話題をサラに振った。

「この街道は魔物がまったくいないんですね。いつもならそろそろ襲われてそうなのに」
「今王都に引き返してますからね。城下町も近いですから、魔物が少ないのはそのせいです」
「え? どうして引き返してるんですか?」

 勇者一行は遥か遠くの魔王城を目指していた。
 魔物を倒しつつ地道に進んで来たはずなのに、逆戻りするなどまったく意味が分からない。

「王様がアメリに会いたいんだってさ」

 ヴィルジールが再び割り込んでくる。
 嫌な顔をするのも忘れ、アメリはぽかんと問い返した。

「は? 王様が? わたしに? は? ナゼ?」
「それが……聖剣の乙女が見つかったと報告をしたら、王様が一度顔を見せに来いと仰せになったらしくて……」
「はぁ!?」

 パニックになったアメリの声が、のどかな街道に響き渡った。
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