恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第10話 王城へ

「勇者様御一行よ!」
「きゃー! ロラン様ぁ」

 王城に通されて、行く先々で歓声が沸き起こる。
 城門をくぐるときも顔パスだ。
 アメリだけが門番ふたりに長い槍でせき止められて、すかさずサラにフォローを入れてもらった。
 こんな地味なアメリが聖剣乙女だなどと、誰ひとりとして思うまい。門番の対応は妥当だと納得しているアメリだった。

「サラ様、今日もお美しいわ」
「魔導士ヴィルジール様も見目麗しい!」
「マーサ様はさすが武闘家ね。あの引き締まった体、憧れるわぁ」
「竜騎士フランツ様も渋くてカッコいい!」

 ロラン以外にも賞賛の眼差しが送られる。
 人だかりに囲まれて、あれよあれよという間にアメリは一行の列から遠く押しやられてしまった。

「ちょっと、あんた邪魔だよ!」

 肘鉄を食らわされ、アメリがよろけそうになる。
 あわや尻もちをつくところを、ふわっと誰かに抱き上げられた。

「ゆ、勇者!?」
「大丈夫か? 聖剣の乙女」

 その場にいた全員が、一斉にアメリのことを見た。
 突然注目を浴びたアメリの声が挙動不審に上ずった。

「お、降ろしてください! わたしは大丈夫ですからっ」

 ひそひそと囁き声が聞こえてくる。どれも不信に満ちた内緒話だ。
 何しろ冴えないソバカス女が、勇者にお姫様抱っこをされているのだ。訝しげな視線が痛すぎて、アメリは必死に身をよじった。

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