恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。

第12話 動揺

「聖剣の乙女様をお連れしました」

 女官の声がけとともに重厚な扉が開かれた。
 仕方なしにおずおず中に入ると、待っていた面々が一斉にアメリを見やってくる。

「あの、みなさん、お待たせしました……」

 竜騎士の鎧を身に着けたフランツが、誰よりも早くぴゅうと口笛をふいた。
 アメリの視線が無意識にロランを探す。
 目が合った瞬間、ロランの顔が険しくなった。そんな気がして、アメリの胸がちくりと痛んだ。
 期待していたわけではなかったが、恥ずかしさよりも罪悪感のような、重たい気持ちが芽生えてくる。
 入り口で身の置き場がないようにしているアメリに、笑顔のサラが近寄ってきた。

「アメリさん、今日は少し雰囲気が違いますね。とても綺麗です」
「はぁ、それはどうも」

 少しどころかもはや別人レベルだろう。詐欺メイクと言ってもいいと、アメリ自身は思っていた。
 対してサラは化粧など一切していない。身に着けている服も、飾り気のない神官の長衣だった。

「サラさんはお化粧とかしなくていいんですか?」
「わたしは神職者ですから。華美な装いは不要です」

 それでもサラは元々美しい顔立ちだ。
 並んで立つとアメリのケバケバしさが、悪目立ちするように感じられた。

「アメリ、なかなかいいんじゃない?」

 値踏みするように武闘家のマーサがアメリの周りをぐるりと歩いた。
 普段は化粧っ気のない彼女も、今日は美しい刺繍が施された武道服を着こなしている。
 それでもアメリに比べれば控えめだ。これから王前に立つに相応しい装いだった。

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