恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
「うんうん、こういう派手めの化粧、アメリに似合うって前から思ってたのよ」
「でも濃すぎると言うかなんというか……」
「何言ってんの。そのくらいじゃないと負けちゃうって」
「負ける? って、何にですか?」
「アメリのおっぱいに決まってんでしょ。そんだけの(モノ)の持ってんだもん。化粧も今くらいド派手にしとかないと、顔が霞むってもんよ」

 ぶふっとフランツが吹きだして、真っ赤になったアメリはとっさに胸元を腕で隠した。

「マーサさん! なんてこと言うんですか!」
「何よ、サラ。本当のことだし別にいいでしょ? ね、ヴィルジール」
「なんで僕に振るのさ。ここはロランの意見を聞かないと」

 ヴィルジールが大袈裟に黒マントごと手を広げると、一同の視線がロランに集まった。
 大きなため息をつき、苛立ったようにロランは立ち上がった。

「くだらない。下品な話に俺を巻き込まないでくれ」
「えー、アメリの前だからってカッコつけちゃって」
「そうだぞ、ロラン。勇者として聖剣乙女に賞賛の言葉くらいかけたらどうだ」
「そんな指図を受けるいわれはない」

 吐き捨てるように言うと、ロランはアメリを見もしないでひとり部屋を出て行ってしまった。
 自分の存在自体が下品と言われたように思えて、アメリはぷるぷるの唇を噛みしめる。

「アメリさん……ロランの態度は気にしない方がいいわ」
「そうさ、ロランはアメリの変わりように動揺しちゃってるだけだしね」
「ああ、アレだな。よくいるんだよ。好きなオンナに冷たくする男がな」
「ウケる! ロラン、意味分かんないんだけどっ」
「いいんです……みなさん、気を使わせてすみませんでした」

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