恋を知らない聖剣の乙女は勇者の口づけに甘くほどける。
 勇者にどう思われようとアメリには関係ない。
 そう思うのに、アメリの心はどうしようもなく沈んでしまった。

「まったく、ロランのヤツ、アメリにこんな顔させやがって。素直になれないチェリーボーイかよ」
「そうよねぇ。さっきだってはぐれたアメリを血相変えて探しに行ってたクセに」
「それはわたしがいないとみんなが困るからって……」
「えー、ロランってば、そんなことアメリに言ったの?」

 頷くと、ヴィルジールはやれやれと肩をすくめた。

「女心が分からないのはモテすぎる弊害ってヤツかな?」
「勇者ってだけでほっといても女どもが寄って来るからなぁ」
「あんたたちだって似たようなもんじゃないの」

 そう言うマーサも人気が高い。

「俺は節操なく手を出したりしない。浮気はしない主義だしな」
「安心して。僕もサラひと筋だから」
「寝言は寝てから言ってください」

 満面の笑顔で手を取ってきたヴィルジールを、サラが無表情で冷たく払いのけた。
 自分から話題が逸れて、アメリは内心息をつく。
 これから王様に挨拶しに行くのだ。ロランのことなど気にしている場合ではなかった。

「そろそろ時間ですね。わたしたちも行きましょう」

 サラのひと声で、ロランの後を追って謁見の広間へと向かった。
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